うつから回復するために

こうしたうつ状態から回復するためにはどのようなことが必要なのでしょうか。うつがきちんと回復していくためには、回復過程のそれぞれのフェーズに応じて注意するポイントが変わっていきます。

初めの段階での3つのポイント

ここでは、健康だった状態から調子が落ちてきて、持続的な抑うつ状態(ならびに付随した心身の変調)に陥った場合、最初の段階で回復のために必要な3つのポイントを説明します。

1.心身を休める(寝る)
2.服薬をする
3.ストレスから遠ざかる

今は情報がたくさん溢れているので、どれも当たり前なことと思うかもしれませんが、それの意味するところをできるだけ丁寧に、より理解いただけるよう説明します。

心身を休める

まずはについて。休息は何よりも優先されるべきです。枯渇してしまったエネルギーを再度蓄積していく試みです。ここでは体のエネルギーとは別に心のエネルギーを補充していくことを意識することが大切です。体のエネルギーは体を横たえて休めることで蓄積されていきます。

しかし、心のエネルギーを意識的に蓄積するとはどういうことでしょうか。当事者の方は理解いただけると思いますが、うつになると頭の中は心配事や不安な気持ちがぐるぐると巡っており、四六時中いつも悩み事が浮かんできて頭の中は常にフル回転しているような状態でいることが多いです。外からみると、活動量が落ちて反応もゆっくりだったりするため、頭の中は何も考えていないように見えるかもしれません。実は心配事をいつも頭の中に浮かべては、落ち込んだ気持ちを再生産していくことで、何もしていなくても心は疲れ続けるスパイラルに陥ります。

そこで、こうした状態のままに放置せず、心を休めることを意識していくことが大切になります。心を休める/安まるとはどういう状態でしょうか。それは、穏やかな気分を味わえたり、ほっとしている時の心のありようです。ぬるめのお風呂に入ってゆったりしている時の気分や、夜に布団に入って寝入りのまどろんでいる時の心もそのような状態に相当します。

心を休めて穏やかな気持ちになれるよう、皆さんなりのやり方を工夫しましょう。ある人は、以前に旅行した時に旅先で体験した素晴らしい景色を思い出しました。最初は、色あせて思い出されるかもしれませんが、あの時に体験した感覚をほんの少しでもいいから取り戻してみましょう。心配事にばかり気持ちを向けていると心のエネルギーが削がれていくばかりです。悩み事が浮かんでも否定する必要はありません。丁寧に脇に置いて頭の中にスペースを作りましょう。そしてほっとできることに頭のスペースを使いましょう。

服薬をする

次にについて。いわゆる抗うつ薬といわれるものです。これによって、脳内物質が調整され、擬似的にも健康だった時に近い脳内物質のバランスになります。それによって、通院を要していたほどの状態が軽減され、自覚的にも正常の時の状態に近づいて見えます。しかし、初期の段階では薬によって脳内物質が調整されているのですが、服薬を辞めてしまうと、またアンバランスな状態になってしまいます。それではずっと飲み続けなければならないかというと、そういうことでもないようです。

うつになった要因としての何らかのストレス状況があったとします。人はストレスがあっても時間が経つと元に戻るような健康さがあります。それが元に戻らないくらいに固定化してしまった場合に、心身の不調な状態が固定化し持続してしまうことになります。しかし、人には自然治癒力があり、傾いたバランスが元に戻るように働く生体恒常性(ホメオスタシス)の機能が備わっています。そして服薬により擬似的にも健康であった時の状態に保つことで、自然治癒力が働きやすくなるようです。

こうして持続的に服薬することによって、脳内物質が調整され、擬似的にも健康な時のような脳内物質のバランス状態に保つことによって見かけ上の改善が図られるのみならず、その背景で事前治癒力が機能して、脳内物質のバランスが回復していき、やがて服薬しなくても健康な時のようなバランスが保たれるようになるという流れになります。

ストレスから遠ざかる

そしてについて。特にうつ状態になるきっかけとなったストレスな状況に直面し続けていると、心のエネルギーがどんどん削がれていきます。寝付かれなかったり、食べたくなくなったりすることで、体のエネルギーも削がれていきます。できるだけ、早くもともとのストレスから遠ざかるよう環境調整をすることが大切です。

ストレスな状況に向き合えるようになることも、やがては必要なことですが、それは回復の過程においては後の段階で扱うテーマです。向き合うにはある程度の心身のエネルギーが必要です。いまこの段階で扱うのは相応しくない場合が多いです。要因となったストレスから遠ざかり、心穏やかに過ごせるようにしましょう。

3つのポイントが心身のエネルギーを蓄積する要件

これらの3つのポイントは多くの方が聞いたことのあることだと思いますが、その意味することをお伝えしました。どれもシンプルなことですが、これから回復していくための最初の出発点として必要な要件だと言えます。

このような、損なわれてしまった心身のエネルギーを再び蓄積していくことを大切にする初期のフェイズをうまく経過すると、少しずつ活動する気が湧いてくるものです。それは次のフェイズに入ったことを意味します。そのフェイズでの回復に有用なポイントはまたの機会に記します。

カウンセリング場面では、うつで来室した初期においては混乱して思考がまとまりにくい状態であったり、誰かに話すことも負担を感じるような状態であることも多いです。このような回復の出発点として必要なシンプルなポイントでさえ一人では扱えない状況にあります。カウンセリングルームでの受容的で心休まる時間と空間の中で、心の専門家と共に回復に向けて取り組んでいくことをお勧めします。回復していく途上の各フェイズを見極めながら、その時々に必要なことをひとつひとつ丁寧に関わっていきます。

うつの方に向けたお話 (3)につづく)